4 『 女を利用飛行機納税宣伝 』
世界広しといえども、飛行機を一税吏が納税宣伝に利用したの、恐らく私一人であろう。
しかも占領下において、米戦闘機を日本酒二合瓶十二本で。
国税庁初代長官高橋さんは広島国税局から一躍抜てきされて、就任するや、戦後頽廃した納税思想の回復することに、税務行政の一本の柱とされ、自らレコードに吹き込みて、国民各層に日本再建は財政の確立にありと、切々に訴う。
内部的には、全国501の署に納税宣伝につとめるように訓令する。
各署は一斉に納税宣伝につとめるが、税務署員はソロバンは立つが、文章や創作的なことは苦手で、ロクなことは出来ない。
わが署の若い署員は、仮想行列をし、チンドン屋の如く町中を練り歩きましょうという。
私は卑近な迷案と心中おもうが、折角の企画だからと採用し、私も一行に加って、恥も外聞も捨て、町々を練り歩いた。
ふと、近所に住む顔見知りのオンリーをして、愛人の米飛行准尉を口説かせて、飛行機から納税宣伝ビラを散布しようと、奇想天外な妙案が浮ぶ。
◎米兵は女に甘い
このことは、勝っていた戦に負けて、バタン戦攻略後、彼等を捕虜として使役し、マニラの埠頭で荷上げ中に軍需品を盗む米兵をこらしめのため、頭を殴るが、背の高い彼の頭に右手が届かず、跪座さして、ビンタをとった。
ところが、主客転倒して、こっちが彼等の捕虜となり、一年間、比島の捕虜収容所で強制労働に服する囚人の身となる。
敗戦国の女は弱く、我が国にオンリーがはい出したごとく、比島でも現地娘が米兵の愛人となる。
比島では現地娘の愛人をオンリーとはよばず、セカンドワイフといった。
このセカンドワイフに米兵は甘く、女が、たのむと、軍用倉庫から盗み出して女にあたえる。
その泥棒の実行者は、作業班長の私であるが、面白半分に、ゴミや廃棄物を捨てに行くとき、そのゴミの下に折畳寝台とか、軍用カンヅメを隠して、ゴミ捨場にトラックで行く。
ゴミ捨場には彼の愛人が待っていて、「サンキュウ」といい、煙草をくれる。
ひどいのは、軍用ジープを売って、その金を女にあたえて、重営倉に入った米兵もいた。
岩国基地の米飛行准尉は、やはり女に甘く。日本娘に口説かれると、
「岩国市長の要請書があれば、戦闘訓練中の飛行機からまいてやろう」
と、いとも簡単にゆう。
これは余談だが、空軍将校は、海軍や陸軍将兵に比し、自由裁量があるらしく、日本でも戦勝中はマニラから知人の飛行将兵に頼んで、私の同年兵は、日本に欠乏していた軍靴や綿製の服地やシンガーミシンなどを、台湾にいる妻にとどけていた。
米軍でも、立川飛行場にいた米空軍少尉が、比島の私が服役している捕虜収容所勤務となり、ある日その将校の掃除当番になると、
「立川基地の日本娘から毎日手紙がくる通訳してくれ」
という、その中の一通に、
『キャプテンのあなたに似た美男の男の子が、やがて生まれるでしょう。早くかえってね』と、下手な日本字で書いていた。これには私はギャフンとしたものだ。
閑話休題、すぐに岩国市長に要請書を書いて貰い、ビラ三万枚を軽三輪車に積んで、海辺の岩国基地に行き、日本人守衛を通して渡す。
その日の午後、岩国の青空に赤いビラがヒラヒラと舞い降りる、赤いビラには”祖国再建は納税にある”と、
このお礼に酒一打をくれというから、岩国の銘酒「錦帯橋」の小瓶十二本をやる。