16 『 序に代えて 』

  雀は鳥の中の庶民である。

 全く平凡な、青空高く飛翔せず、美声で、唄うこともしらず姿は小さい。しかし、舌切り雀の童話は、鳥に関する物語では、一番親しみ深く庶民的である。キリストは、税吏卑賤という。私は、その一人であるが、不思議な縁で『人生劇場』の尾崎士郎先生に、実弟の如く寵愛される。

 

  名優、宇野重吉さん、横綱朝潮さん、名司会者、高橋圭三さんとも、深い縁がある。また賀茂鶴の会頭石井武志氏、中国新聞重役、森脇幸次氏等の知遇を得る。

 

  兵庫県、柏原赤十字病院の近藤松平さんは、未知無縁であり、まだ一度もお会いしていないが、私の従軍中のことを、婦人会などに行き講演しているという。戦争は、憎しみのない者が、敵味方となりて、集団殺人をする。こんな馬鹿馬鹿しいことはない。

 

  一兵卒であった私は「戦争を軽蔑しながら」砲弾雨下に、俳句を作っていた。このことが、偶然のことで、戦時中の文部省の国定教科書に掲載された。ただ、それだけのことである。

 

  この書は、日常の仕事の合い間に、書いたものであり、録なものがないが、模倣や借物はないから、中に宝石があるかも知れぬ。

 

  これを、同僚の上岡健市君(同人誌、広島作家代表)が編集し、同僚の宮本満雄君(光風会)が挿絵を描く。

 

  いわば税吏三人の共同作品である。

 

  人間税吏の嘆きは、もしかすると、庶民の悲鳴であるかも知れぬ。

 

                                 著者 大成 治