2020-01-01から1年間の記事一覧

1 『 税務署を焼打ちにする 』

そのころ、私の机の上には、毎日毎日税の不平、不満、呪詛、はたは恐迫の手紙が殺到し、山のようになる。 フィリッピンの戦場の砲弾下に六年もいて、悪運強く九死に一生を得て帰還したが、闇屋となることを潔よしとせず、ふるさとの島で半年ほどぶらぶらして…

2 『 税務署は白昼強盗 』

戦後の税務署は現在の五倍も六倍も人員がいた。しかし大蔵事務官と名のつく者は署長以下数名で、あとは新参の少数の年配者と若者である。 利の気いた税務職員は退職して、闇商人になる時代だから、賢しこくて智慧のある者は、人が憎む税務署員にはならない。…

3 『 ムシロ旗の先頭は税務署員 』

一介の税吏として17年勤める、第一線の税務署を7署と、国税局に7年いたが、その中で岩国の一年は烈しい反税闘争が全管内に起り、署には、ムシロ旗を立てて押しかけ、署長が町村役場に行くと村民が、署長を役場の庭に呼び出し、土下座して謝れと強要し、…

4 『 女を利用飛行機納税宣伝 』

世界広しといえども、飛行機を一税吏が納税宣伝に利用したの、恐らく私一人であろう。 しかも占領下において、米戦闘機を日本酒二合瓶十二本で。 国税庁初代長官高橋さんは広島国税局から一躍抜てきされて、就任するや、戦後頽廃した納税思想の回復すること…

5 『 出雲は税務署天国 』

ときならぬときに出雲署に転勤の辞令がくる。 栄転、左遷、横すべりという、毀誉ほうべんの気持はなく。 ”ウン、これはいい” と心中で喜ぶ。 岩国は米空軍の重要な基地となり、米軍将兵のドルをねらって、バーや進駐軍兵士を相手の売春のオンリーが、東京、…

6  『 銭三千枚税務署中ばらまく 』

山陰は、晩秋から翌年春までは、曇天の日が続き、雨多く、雪の日もあり、山陽から移り住むと、頭から黒布をかぶされているようで重い気持だが、住みなれてみると、米、野菜、魚とおおく、サバは最盛期は、とれすぎて、さばききれず、トラックに満載してき百…

7 『 署長の恋 』

お上は非情にして、天国出雲には私を一年しかおかず、津山へ行けというもとより浮草稼業は覚悟しているが、一片の辞令で、毎年毎年の転勤命令には、心中不服におもうが、日本の税務署の子飼いでなく、戦後入署の引揚者だから、虐待されるも止むを得ぬと、自…

8 『 納税者慰安の夕べ 』

納税署長だから愛人をつくってはならないという法律はなく、女の一人や二人はいてもいいとおもうが、署長会議をど忘れするは論外というよりほかはなく、しかも、その会議は税務署の中の共産党のシンパを追放する大事な会議で、その該当者が津山署にいた。 そ…

9 『 税金取り新撰組の隊長 』

野暮で、わがままな私のどこが気に入ったか、「国税局の税金取りの隊長になってくれ」と、たびたび誘いがかかる。 野人を自認している私は、野におけ、蓮華草で、国税局はその都度断る。 だが、強行に辞令を発し、津山署も一年にして国税局に入る。 強気には…

10 『 天皇降臨の工場を差押う 』

私の座右の銘は ・失意泰然、得意冷然 もう一つは明治天皇の御製 ・さし昇る朝日のごとくさわやかに もたまほしきはこころなりけり 男の人生街道は栄華盛衰は常にして、私のごとく、毎年毎年一年毎に転勤させられ、その度に左遷だ、横すべりだと、ひがみ、お…

11 『 美男税吏と人妻 』

対岸は 梅の寺なり 造船所 この句は、昔の月刊誌ホトトギスに載っていたが、作者は虚子の高弟であったとおもう。 春の尾道を訪れ狭い海峡の浜の景色をよく詠んでいる。 瀬戸内海の春は波も穏やかに、島々はおぼろな霞の中に眠るごとく、桃の花が咲き一幅の絵…

12 『 私の回顧録 』

戦後、中国五県のやくざの親分は、西は下関の○○、東は児島の○○○こと、○○と広島の○○○の○○である。 ○○の初代は、下関と九州博多に多く輩下をもち、博徒の大親分であるが。 二代目は、丹下左膳のごとく、左頬に長い刀傷のあとが流れていた。一見、凄味があるが…

13 『 不死身の滞納者 』

昨年の春、男と離別し、一人娘と暮す女が、近所にささやかなパン屋を開き、青色申告を教えてくれと、訪ねてき「税金は怖い、終戦のころ一家心中をし、女中と犬までも共に死ぬ」という 「それは事実か」と、私は心中驚天し、ききただす。 戦後の徴税攻勢に重…

14 『 手文庫の中は 』

終戦後に、脱税を密告下された方には、一割の報奨金を差しあげます、というおもしろい制度があった。 その頃、なお戦時中の物価統制令という法律が生きていて、米、塩の食料品などと、衣類、鉄・木材の主要必需品は、従前のままの価格で押えられていたが、 …

15 『 税吏天下に名を売る 』

一介の税吏のなれの果ての私ではあるが、過ぎにし日に一つの輝かしい金字塔をもつ私である。 もし、日本が大東亜戦争に勝っていたら「俳句の兵隊さん」といわれ、全国各地の婦人会や在郷軍人会は、争って私を歓迎し、グァム島の密林に18年間潜んでいた横井…

1 『 狐うどん 』

三人の中学生が川端で立小便をしている。 遠く前方の青空に生駒連峰が浮かび、西空に新世界の通天閣と四天王寺の五重の塔が高くそびえ、大阪の煙の空帯に突きささっている。 後姿でよくわからないが、三人ともMボタンをはずし、砲列を布いて、あたかも赤い…

2 『 間接殺人 』

その国では男の子が生まれると親は顔をしかめる。 「ヤレヤレ、二十年後には嫁を買ってやらねばならぬ厄介物が・・・」 と心中暗然となる。女児は生後七日たてば売買の対象物となり、美しく育てて嫁として売れば莫大なへい(幣)がはいるので、真赤な餅をつ…

3 『 百人斬り 』

将棋は小学一年のとき見よう見まねで覚え、へたな碁は同僚と白黒の石がきをつんで覚える。 マージャンは、昭和初期は亡国遊戯とされ、一般は敬遠していた。 わたしもそのひとりで、同僚に勧誘されるが、仲間に加わらなかった。ところがマージャンを知らない…

4 『 妻を抱く 』

石坂洋次郎さん、火野葦平さん、今日出海さん、画家の向井潤吉さん等の報道班員十数名が ぎこちなく二列に並んでいく。白く冴えた月は煌々(こうこう)と焦土と化した戦野を照らし、一大決戦を数日後にひかえたバタン半島は粛然として声なく、無気味な沈黙の…

5 『 慰安所での弁当 』

兵隊と子供達とはすぐ友達になる。 「ユー、姉さんあるか」 「ノー」 「ないか、だめだ、姉さんある子を連れてこい」 と掠奪品のピットモントを一本与える。その子は手つきも器用にうまそうに鼻から煙をふいて吸う。 比島では七、八歳の子どもも平気でたばこを吸っ…

6 『 恋仇と恋文 』

真昼の白日下で若い女が肌をぬぎ、パンツをぬいてシラミをとっている。 一人ではない。 十数人の娘たちが一糸まとわない裸体でからだをかがめ、シラミ取りに余念がない。 こんな素晴らしい光景は、いかに映画人といえども表現できないし、だれもが想像だにし…

7 『 戦場の山ヒル 』

私の出征風景は、まるで債鬼に追われて逃げる破産者であった。 だれ一人の見送りもなく、妻がただ一人悄然と、駅のホームで蚊の泣くような声で 『元気でね』 と悲痛に言う。軍が日米決戦をひそかに企画していた昭和16年10月3日、極秘のうちに動員召集を…

8 『 どさくさの恋 』

レイテ沖海戦の第一報は 「米艦隊を湾内に包囲し、わが掌中にあり」 と、無線が入り歓声をあげるが、これがまんまと、米の策謀にかかり、 逆に日本艦隊は、無数の米艦隊に沖を封鎖され袋の鼠となり、内と沖から はさみうちとなり、翌日、わが艦隊は、もろくも…

9 『 想恋夫 』

山下将軍の巨体がいずこに埋葬されているか、今もってナゾであるが、 処刑は昭和二一年四月九日の予定であった。どうしたことか二日後の十一日午前一時十七分に執行された。場所は、比島ラグナ湖畔の、ロスパニオスの丘の上の刑場であった。 将軍は泰然とし…

10 『 捕虜と現地娘 』

比島バギオ山脈中には、実に数万の戦友が眠っている。 みな餓死したのだ。私も、草を食い、木の根をかじって頑張ったが、栄養失調となり 路傍に行き倒れ、死にかけていたのを米軍に助けられて捕虜となる。 20年の9月20日のことである。 収容所にはいる…

11 『 ケネディ大統領 』

尊敬するケネディ大統領様。 閣下の厚い信仰心と、深い道義心に訴え、貴国サンフランシスコ郊外のアルカート刑務所に反逆罪で死刑囚(現在は終身刑)として服役中の日本人二世、川北友弥氏の早期釈放を、僭越でございますが、嘆願します。川北氏は、日本人と…

12 『 百歩蛇 』

台湾は蛇が多い。熱帯のフイリッピンには大トカケが棲むが、蛇は少ない。亜熱帯の台湾は蛇の生息に適し、いたるところに有毒無毒の多種多様の蛇が棲む。 青竹蛇は真竹の如く青く、樹上にいて、下を通ると襲いかかる。 百歩蛇は、昼は草むらに潜み、夜道に、…

13 『 トイレ文学 』

いろはかるたに 「せっちんにまんじゅう」 と、いうのがある。 可愛い小坊主が仏壇の供物の饅頭をかすめて、しりをまくって、ぱくついている絵は、ほほえましく、字を知らぬ童子でも絵をみてとれて、子供心にもうれしいものの一つである。 これを 「便所で饅…

14 『 三次元の男 』

ノグチ・イサムがデザインし、一時広島の名物になっていた平和大橋を渡っていると、車中から青坊主が 「先生」 と、叫ぶ。僧の照蓮だ。二年ぶりの出会いで、近くの喫茶店に入る。 「元気だな」 「ハア」 「発展していると聞くが」 「どういう意味ですか」 と、若い僧は…

15 『 トイレ文学 』

いろはかるたに 「せっちんにまんじゅう」 と、いうのがある。 可愛い小坊主が仏壇の供物の饅頭をかすめて、しりをまくって、ぱくついている絵は、ほほえましく、字を知らぬ童子でも絵をみてとれて、子供心にもうれしいものの一つである。 これを 「便所で饅…